この記事のポイント

  • タロットの起源は「古代エジプト」ではなく、15世紀の中世イタリア貴族の遊びカードにある
  • 「エジプト発祥」説は18世紀フランスの神学者が唱えたもので、現在は歴史的に否定されている
  • マルセイユ版は17〜18世紀フランスで標準化された古典デザインで、小アルカナに挿絵がない
  • ライダー版(ウェイト版)は1909年に誕生し、全78枚に絵が描かれた革命的なデッキ
  • 占いツールへの転換は18世紀後半の神秘主義ブームがきっかけ

積まれたタロットカードの束

タロットカードに触れたことがある方なら、一度はこんな疑問を抱いたことがあるのではないでしょうか——「このカードって、いったいいつ、どこで生まれたの?」と。

「古代エジプトの叡智が詰まっている」「ピラミッドと何か関係がある」……。こんな話を耳にした方は少なくないと思います。ところが、タロットの歴史を実際に辿ってみると、エジプトとの直接のつながりは見当たらず、むしろ中世ヨーロッパの貴族社会という、もう少し地に足のついた出発点が見えてきます。

この記事では、タロットが「遊びのカード」として生まれ、やがて「神秘的な占いの道具」へと変容していく過程を時代ごとに整理します。現代につながる二大系統——マルセイユ版ライダー版——がどのように誕生したかも詳しく取り上げます。タロットをより深く知りたい方にとって、ひとつの読みごたえある地図になれば嬉しいです。


タロットの「本当の起源」は15世紀の北イタリア

タロットの歴史を語るとき、まず整理しておきたいのが**「古代エジプト起源説」**です。

この説を世に広めたのは、18世紀フランスの神学者アントワーヌ・クール・ド・ジェブランという人物です。1781年に発表した著作『原始世界』第8巻の中で、「タロットの起源は古代エジプトである」と主張しました。当時のヨーロッパでは、神秘的なものの権威付けとして「エジプト発祥」を持ち出す風潮が広くあり、タロットもその流れに乗った形で”エジプト起源”のラベルを貼られたとされています。

現代の歴史研究ではこの説には確たる根拠がないとされており、学術的には否定されています。

では実際の起源はどこにあるのか——現在確認できる最古の文献記録は、1442年の北イタリア・フェラーラ宮廷の帳簿の記述です。そして現存する最古のタロットデッキは、1450年代ごろにミラノのヴィスコンティ家・スフォルツァ家周辺で制作されたもの(ヴィスコンティ・スフォルツァ版)とされています。

タロットの歴史は、古代の砂漠ではなく、北イタリアの華やかな宮廷から始まっていたのです。


貴族の遊びから始まった「トリオンフィ」カード

最初期のタロットは、占いとは無縁のカードゲームの道具として使われていました。

既存の4スートのカードに「トリオンフィ(勝利者)」と呼ばれる特別な切り札21枚と「愚者(フール)」を加えた構成が、現在の大アルカナ22枚の原型です。このゲームは「タロッキ」と呼ばれ、貴族たちに親しまれました。

当時のカードは職人が一枚一枚手描きで仕上げた豪華なもの。ヴィスコンティ・スフォルツァ版に描かれた人物や象徴のモチーフには、中世ヨーロッパの宗教観や道徳観が色濃く反映されています。

印刷技術の普及とともに大量生産が可能になると、タロットは貴族だけでなく一般市民の間にも少しずつ広まっていきました。15〜16世紀を通じて、タロットは北イタリアからフランス、スイスなどヨーロッパ各地へと伝播していきます。


マルセイユ版タロット ── フランスで生まれた古典の標準形

タロットカードを引く手元

17〜18世紀になると、タロットカードの製造と販売はフランスで特に盛んになります。この時代に南フランス・マルセイユのカード職人たちが手がけたデザインが後に「マルセイユ版」として知られるようになりました。

「マルセイユ版タロット」という名称が広く普及したのは20世紀に入ってからのことです。1930年代にフランスのグリモー社が、18世紀のカード職人ニコラ・コンヴェルの作品を「マルセイユ版タロット」の名で復刻・販売したことで、その呼称が定着したとされています。

マルセイユ版タロットの主な特徴

項目内容
大アルカナ(22枚)すべてに寓意的な絵が描かれている
小アルカナ(56枚)人物札4枚+数札(1〜10)。数札には絵がなくシンプルな図柄
カラーリング赤・青・黄を基調とした鮮やかな色調
正義と力の順番正義=8番、力=11番
リーディングスタイル数秘術・象徴解釈を中心とした伝統的な読み方

小アルカナの数札に絵がないため、初心者にはとっつきにくい面もあります。しかしその分、数字の象徴性と大アルカナの絵柄の解釈に集中できるとも言えます。伝統的なタロットを学びたい方や、象徴の純粋さを大切にしたい方の間では、今もマルセイユ版は根強い支持を集めています。


【事例(フィクション)】

40代のAさんは、長年勤めた職場での自分の役割に疑問を感じ始めたころ、知人の紹介でタロット鑑定を体験しました。引いたカードの一枚「隠者」——ランタンを手にしながら一人で歩む老賢者の姿——を目にして、「今は焦って答えを出さなくていいのかもしれない」と感じたといいます。占いが「正解を告げるもの」というより、立ち止まって内省するための時間をくれるものだと気づいたようです。

※この事例はフィクションであり、実在の人物や出来事とは関係ありません。


神秘主義との融合 ── 「占いツール」への転換点

タロットが「ゲームの道具」から「占いの道具」へと変化したのは、18世紀後半のヨーロッパにおいてです。

先述のジェブランによるエジプト起源説の発表(1781年)を機に、オカルトや神秘主義の世界でタロットへの関心が急速に高まりました。カバラ(ユダヤ神秘主義)、数秘術、西洋占星術などとタロットを組み合わせた解釈体系が次々と構築され、78枚のカードは「宇宙の叡智が宿る神聖な道具」として位置づけられるようになっていきます。

19世紀に入るとヨーロッパ各地でオカルト結社の活動が活発化します。なかでもタロットの歴史に大きな転換点をもたらしたのが、1888年にイギリスで設立された魔術結社**「黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)」**です。この結社はカバラ・占星術・タロットを体系的に統合した独自の神秘哲学を発展させ、のちの「ライダー版」誕生に直接つながっていきます。


ライダー版の誕生 ── 1909年の革命的デッキ

「黄金の夜明け団」のメンバーであったアーサー・エドワード・ウェイトは、従来のタロットに不満を感じていました。カバラや西洋魔術の教義をより深く反映した新たなデッキを創りたいと考えた彼は、同じく「黄金の夜明け団」のメンバーであったイラストレーターパメラ・コールマン・スミスに全カードの絵柄デザインを委託します。

そして1909年、ロンドンのライダー社から出版されたのが、現在「ライダー版(ウェイト版)」として知られるタロットデッキです。

ライダー版が革命的だった理由

比較項目マルセイユ版ライダー版
小アルカナの絵数札は挿絵なし全56枚に詳細なイラスト
大アルカナの番号力=11、正義=8力=8、正義=11(入れ替え)
絵柄の物語性象徴的・幾何学的場面描写が豊かでストーリーを読み取りやすい
占術との統合シンボル解釈中心カバラ・占星術と体系的に統合
初心者の入りやすさやや学習が必要視覚的に直感的で入りやすい

全78枚に具体的な場面が描かれたことで、「カードに何が見えるか」を直感的にリーディングできるようになりました。現代に流通するタロットデッキの多くがこのライダー版のスタイルを継承しており、タロット入門書の多くもライダー版を基準に解説されています。


【事例(フィクション)】

20代後半のBさんは、就職後に「本当にやりたいことは何だろう」と迷い始めた時期に、書店でタロット入門書を手に取りました。試しにライダー版のデッキを購入してセルフリーディングをしてみたところ、引いた「カップの5」——こぼれた3つのカップを前に項垂れる人物の傍ら、まだ2つのカップが無事に残っている——というイラストが心に刺さったといいます。「失ったことにしか目を向けていなかったかもしれない」という気づきが、少し前向きに動くきっかけになったそうです。

※この事例はフィクションであり、実在の人物や出来事とは関係ありません。


現代のタロット ── 世界中に広がった78枚の体系

テーブルに広げられたタロットスプレッド

ライダー版の登場以降、20世紀を通じてタロットは世界中に急速に普及しました。現在では数千種類ものデッキが制作・販売されており、アート系・ポップカルチャー系・各国の神話をモチーフにしたもの、LGBTQ+フレンドリーなデザインのものまで、実に多彩なスタイルが生まれています。

日本でタロットが本格的に普及したのは1970〜80年代ごろとされています。現在は電話占いやオンライン占いのコンテンツとして広く活用されるほか、セルフケアや自己理解のツールとして若い世代がタロットを取り入れる文化も広まっています。

タロットの主な系統まとめ

系統代表的なデッキ特徴
マルセイユ系コンヴェル版、カモワン版 など伝統的・象徴解釈重視
ライダーウェイト系ライダーウェイトタロット、他多数全絵札・直感的リーディング
トート系トートタロット(クロウリー)カバラ・占星術と深く統合
現代オリジナル系各アーティストによるデッキ多様・個性的

まとめ ── タロットは「問い」を持ち帰るもの

タロットの歴史を辿ってみると、このカードが多様な時代の思想・文化・芸術を吸収しながら変化し続けてきたことがよくわかります。

古代エジプトとのロマンチックな繋がりは歴史的には否定されていますが、それでもタロットは約600年にわたって人々の心を引きつけてきた文化的遺産です。占いが「答えを出すもの」ではなく「自分の内面を映す鏡」だという見方は、タロットの長い歴史を知るほどに腑に落ちてくるのではないでしょうか。

78枚のカードが問いかけてくるのは、「未来はこうなる」という予言ではなく、「今の自分はどこを向いているか」という内省への誘いなのかもしれません。タロットのリーディングをもっと深く学んでみたい方、あるいはプロの占い師に一度見てもらいたいという方は、電話占いを試してみるのも一つの選択肢ですよ。


この記事は公開情報・文献資料をもとに、占いウィシラ編集部カナエが執筆・監修しました。